俳句を楽しむ(昭和の俳人・作り方15)
前々回は明治の俳諧人、前回は大正の俳諧人、そして今回は昭和の俳諧人についてです。 昭和に入ると、ホトトギスの俳諧人の俳句は新しい展開を見せ始めました。 大正のホトトギスの俳句は、ロマンティックな大げさな言葉の乱用多く、表面的効果のみを追った俳句が目だつようになりました。 それで虚子はその行き過ぎを是正するために、写生の手法を説いたのです。 事物の正確な観察をし、的確な描写をしていない表現は読者に感動を与えないとのことでした。 この新しい指導のもとに登場したのが昭和のホトトギス作家 水原秋桜子(1892~1981)、高野素十(1893~1976)、阿波野青畝(1899~1992)、山口誓子(1901~1994)、中村草田男(1901~1983)等でした。
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大正ホトトギスの作家は遠景と近景の組み合わせで特に遠景を重視しましたが、(前回号参照)、虚子の指導のもと、高野素十などの俳句は近景の描写の重視になりました。 単純な描写にもみえますがその中に、独特な空間認識があり素晴らしいものがあると評価をされたのです。
「蟻地獄松風を聞くばかりなり」
蟻が引っ張り込まれてゆく、虚空の無限の広がりがある。
「甘草の芽のとびとびのひとならび」
対象を凝視しスケッチ。客観写生の典型だと虚子賞賛。
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昭和ホトトギスであった水原秋桜子は、高浜虚子のその指導・近景描写は、科学的描写だけで無味乾燥であると批判するようになり、ホトトギスを脱退し独立をします。 それに刺激されて、若い俳人達が「新興俳句」という過激な俳句革新運動を起こします。 秋桜子自身はあくまでも無季の俳句を認めず、俳句の題材を自然および自然と関わる人間の生活に求めたのですが、「新興俳句」の俳人たちは、無季なるもので革新的なものを追究したのです。 「新興俳句派」には、西東三鬼(1900~1962)、富澤赤黄男、篠原鳳作(1905~1936)、高屋窓秋(1910~)、渡辺白泉(1913~1969)らがいます。
水原秋桜子の俳句:
「わがいのち菊にむかひてしずかなる」 (新樹への気持ち)
「なく雲雀松風立ちて落ちにけむ」 (学究派の生物観察)
「瀧落ちて群青世界とどろけり」 (世界観を目覚めさす))
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富澤赤黄男の俳句 (「新興俳句」派の代表格):
「靴音がコツリコツリとあるランプ」
「花粉の日鳥は乳房をもたざりき」
「窓あけて虻を追ひ出す野のうねり」
日本人の共有の価値観の上だけでは表現が不充分として、誇張した表現を使っています。 そして 家柄・縁故などの日本的風習に反発し、運命たるものと戦おうとした特徴が「新興俳句」派の句にあります。
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またもう一方、この「新興俳句」の人間観を批判して、永田耕衣や平畑静塔(1905~1997)などの俳人が、戦後に「根源俳句」の運動を始めます。 耕衣は、自分の運命を冷静に観察することが使命と考えて、「新興俳句」のように運命と戦うという態度はとりませんでした。 耕衣は芭蕉の方法論を見なおし、ホトトギス派の俳句観には疑問を呈したのです。 大衆倫理的で、蓄財を嫌い清楚に暮らし旅をした芭蕉の人生観に共感、ホトトギス派の簡潔な句には対抗的でした。 芭蕉は俳句の中で、人間の非力さ・運命の偉大さを知らしめようとしましたが、耕衣も事物の滑稽な側面を強調して、世界の本質を読者に考えさせようとしたのです。
耕衣の句:
「田にあればさくらの芯がみな見ゆる」
「後ろにも髪脱け落つる山河かな」
「死螢に照らしをかける螢かな」
「落蝉や誰かが先に落ちている」
以上は、ホームページ「俳句の歴史」を参照。
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<俳句の作り方 15> 切れ字・添え字の使い方の添削
善出版・山崎ひさを著「やさしい俳句」より
① 下五における「つ」「き」「す」「る」「く」
「~~嶺々に充ち」→「~~嶺々に充つ」
・・・「つ」は終止形になる
「~見ずなりし~夜の長し」→「~~夜の長き」
・・・断定重複を避ける
「~乳たりし子の尻重し」→「~~尻重き」
・・・「し」の重複を避ける
「~~夕はやし」→「~~夕はやく」
・・・「し」終止形にならない
「~~取り戻し」→「~~取り戻す」
・・・ 〃
「~~丈計り」→「~~丈計る」
・・・終止形には「く」「す」「る」
② 上五における 切れ字「や」の使い方
「秋風の~~」→「秋風や~~」
・・・「や」の方が切れ字強い
「山頂の霧の中なる~」→「山頂や霧の中なる~~」
・・・ 〃
「雪晴れや~光けり」→「雪晴れの~光けり」
・・・切れ字重複を避ける
「春愁や~遅きかな」→「春愁の~遅きかな」
・・・ 〃
「~や~一羽を一羽追う」→「~の~~」
・・・上五が軽い修飾句
③ 一字推敲「て」は中途半端な切れ字
「爪切りて~~」→「爪切るも~~」
・・・「て」の切りは強過ぎ
「~別れて春の雪」→「~別れの春の雪」
・・・「て」句切れ強過ぎ
「~ふっくらと煮て冬立ちぬ」→「~ふっくらと煮え~」
・・・ 〃
「~されて凍鮪(いてまぐろ)」→「~されし凍鮪」
・・・ 〃
「~鼻寄せ合えて~」→「~鼻寄せ合える~」
・・・ 〃
④ 一字推敲「も」は複数をさし、ピントがぼける
「子も届く~~」→「子の届く~~」
・・・子供に焦点をおける
「~星も生まれけり」→「~星の生まれけり」
・・・星にに焦点をおける
「どの車窓も緑~~」→「車窓より緑~~」
・・・複数車窓は不要
「~寡婦の座になじみ」→「~寡婦の座にも慣れ」
・・・「も」の利用例
「~雨の音春きつつ」→「雨だれの音にも~~」
・・・ 〃
⑤ 一字推敲「は」は説明になりがちで好まれない
「買初は~~」→「買初の~~」
・・・「は」では切れてしまう
「~野川は光り~」→「~野川の光り~」
・・・説明的を防ぐ
「~~下は草刈られ」→「~~下の草刈れる」
・・・後文は能動体へ変わる
「長き夜は~~」→「長き夜や~~」
・・・説明避け、句意鮮明に
「消燈までは編みをりぬ」→「消燈までの毛糸編む」
・・・主は毛糸を編むこと
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4ヶ月間 俳句のブログをしてきました。 今回でもってこの俳句ブログ第1段のピリオドとします。 またときをみて、次のステップの勉強をしたいと思っております。 俳句仲間が早く増えますように願っています。